ニュースの概要
藤本タツキ氏の人気漫画を原作とする実写映画『ルックバック』の撮影に使われたセットが、秋田県にかほ市に復元された。作品の舞台である「藤野と京本のまち」を、ロケ地マップを片手に歩いて巡れる仕組みである。撮影が終われば解体されるのが通例のセットを、あえて残して公開する点が特徴だ。ウォーカープラスはこの動きを聖地巡礼として紹介している。ファンにとっては、スクリーンで見た風景に実際に立てる貴重な機会になる。一方で自治体にとっては、映画の公開時期に合わせて人を呼び込む好機となる。本稿では、この取り組みの狙いと、地域や企業にとっての意味を考える。
引用元: 【聖地巡礼】実写映画『ルックバック』の撮影セットが秋田・にかほ市に復元!“藤野と京本のまち”をロケ地マップで巡る(ウォーカープラス)
分析・見解
撮影セットを壊さず残すという判断の重さ
映画のセットは、撮影が終わると解体されるのが普通である。保管にも撤去にも費用がかかるからだ。それを復元して公開するのは、作品の価値を観光の資産に変える決断と言える。
『ルックバック』は、二人の少女が漫画を描き続ける物語である。派手な名所があるわけではない。田んぼの道、家の窓、部屋の机といった、ごく普通の場所が物語の核になっている。だからこそ、実物のセットに立つ体験が強く響く。ファンは「見る」のではなく「その場に身を置く」ことを求めているのである。
日常の風景こそ聖地になる時代
聖地巡礼の先行例は多い。『君の名は。』の岐阜県飛騨市や東京の須賀神社、『スラムダンク』の神奈川県鎌倉高校前の踏切が代表的だ。特に鎌倉高校前の踏切には、海外からも大勢が訪れ、交通整理が必要になるほどの混雑が生じた。
これらに共通するのは、観光地ではない普通の場所に、物語の記憶が重なっている点である。にかほ市も、象徴的な名所を持つ土地ではない。しかし、むしろその素朴さが作品の空気と合致する。大がかりな施設を作らなくても、ファンの心に残る場所は作れるのだ。
一過性で終わらせないための仕組み
課題は、公開直後のにぎわいをどう長く続けるかである。映画の話題性は数か月で薄れる。先行事例を見ると、人が戻る地域には共通点がある。第一に、マップや案内板が整っていること。第二に、地元の店や宿が参加できる導線があること。第三に、住民の暮らしを守るルールが明確なことである。
ロケ地マップは、単なる地図ではない。人の流れを設計する道具である。立ち寄り先に地元の飲食店や物産店を入れれば、滞在時間が延び、消費が増える。逆にマップがなければ、ファンは目的地だけ見て帰ってしまう。
住民との共存が最大の分かれ目
聖地巡礼は、放置すると住民の負担になる。私有地への立ち入り、路上駐車、騒音などの問題は、各地で起きてきた。復元セットを一か所にまとめて公開する方式は、この問題を和らげる。ファンの熱量を受け止める場所を用意し、実際の住宅地への負荷を減らせるからだ。今後は、こうした受け皿型の公開が広がると考えられる。
ビジネスへの影響
自治体や観光事業者が真似できる三つの手順
映画やアニメの話題は、自治体が自力で作れるものではない。しかし、来た人を受け止める準備は自力でできる。まず、制作側と早い段階で協議し、セットやロケ地の扱いを決めておくことである。次に、ロケ地マップを作り、周辺の店舗を巻き込む。最後に、公開期間と終了後の扱いを事前に示すことである。期限が見えると、ファンは早めに訪れ、需要が前倒しで生まれる。
一般企業が学べる、ファンの熱量の扱い方
企業にとっての示唆は、熱心なファンは自分で動くという点だ。商品や拠点を見せる場を用意すれば、ファンは口コミと来訪で価値を広げてくれる。工場見学や創業の地の公開も、同じ構造を持つ。大切なのは、見せる場所を決めて動線を作ることだ。無秩序に広がるより、受け皿を設けた方が顧客体験も守れる。
実行前に確認したいリスクと費用
セットの復元や維持には費用がかかる。天候による傷みの補修、警備、清掃などの運営費も見込む必要がある。来訪者数の見込みが外れた場合の備えとして、入場無料か有料か、グッズ販売で採算を取るかを決めておきたい。まずは小さく始め、来訪者の声を集めて広げていく進め方が堅実である。
